仕事先で、税金などに関する書類を書くときに「扶養」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
扶養とは実際にはどういうものなのか、扶養のメリットやデメリットにはどのようなものがあるのか、などという疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、こちらの記事では扶養の意味や扶養に入る条件、扶養から外れたらどうなるのか、など扶養についての情報をご紹介していきます。
収入や支出に影響する「扶養」について知っておこう
アルバイトやパートをしている方やしたことがある方の多くは、「103万の壁」や「130万の壁」といった言葉を聞いたことがあると思います。
103万と130万はどちらも収入額のことなのですが、これらの金額が扶養控除に関係しているということはご存知でしょうか?
「扶養控除という言葉はなんとなく聞いたことがあるけれどよく分からない。」
「私には扶養控除が適用されるの?」
「扶養控除のメリット・デメリットは何?」
など、様々な疑問をお持ちの方のために、こちらの記事では扶養とは一体何なのか、扶養のメリット・デメリット、扶養に入る条件などについてご紹介していきます。
ご自分の扶養について気になる方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
「扶養」とは一体なんだろう?
扶養とはどういう意味か?
そもそも、「扶養」とはどういう意味なのでしょうか?
三省堂大辞林によると、扶養とは「たすけ養うこと。生活の面倒をみること。」と記載されています。
つまり、生活の面倒をみる「扶養する側」と、その扶養される側に養われている「扶養される側」の2種類に分けることができます。
なので、たとえば、共働きの夫婦のうちフルタイムで働く夫の年収が1,000万円でパートタイムで働く妻の年収がそれよりも低い場合、妻が扶養される側と考える方が多いのではないでしょうか?
しかし、実は法的に考えた場合、必ずしも妻が扶養される側になるとは限らないんです。
それは一体どういうことでしょうか?
扶養控除で受けられる優遇措置とは?
法律では、衣食住などにかかる金銭的な扶養を受ける対象の家族のメンバーを「扶養家族」と呼びます。
扶養家族を持つ人には金銭的な負担がかかるので、その負担を軽くするために、法律では医療保険などの「社会保険」と、所得税などといった「税金」の支払いにおいて、扶養家族を持つ人が優遇措置を受けることができるように取り決められています。
そして、配偶者の「配偶者控除」や子どもなどの「扶養控除」といった扶養家族の中での種類や、それぞれが稼ぐ収入の金額などによって、優遇措置を受ける条件が変わってくるんです。
優遇措置の内容をいくつかご紹介すると、まず所得税における優遇措置に関しては、扶養家族を持つ人は所得税の支払い額から一定の額が差し引かれることになっており、これを対象者によって「配偶者控除」または「扶養控除」と呼びます。
それだけではなく、所得税における扶養に入っている配偶者や子どもなどは、自身が稼いだ収入の所得税を納める義務が免除されています。
さらに、配偶者控除や扶養控除として所得税の支払いの面において負担が軽減されていることに加えて、企業や団体によっては「扶養手当」といった形で金銭的にサポートをしてもらえる場合もあるんです。
支払う金額が減るだけでなくもらえる金額が増えるという仕組みが整っているのは、なんとも嬉しいですよね。
また、健康保険や厚生年金保険などの社会保険に関しては、家族の中で1番収入が多い人が健康保険や厚生年金保険に加入している場合に、扶養家族は自身の保険料の支払いをすることなく保険の適用対象となることが可能となっています。
なので、たとえば健康保険の被保険者の扶養家族が病気や怪我などで病院に行ったり薬をもらいに行ったりした場合は、3割負担や1割負担などで診察を受けたり処方箋をもらったりすることができ、保険料の支払いをする必要もないんです。
扶養控除を受ける条件にはどのようなものがあるの?
以上のように、日本では配偶者控除や扶養控除、所得税や保険料の支払い義務の免除などという形で、税金や社会保険料を納める人たちの金銭的な負担が軽減されるようなシステムが出来上がっています。
ただ、こちらのシステムは配偶者や子どもなど養っている対象がいれば誰にでも適用される、というわけではないことに注意しましょう。
扶養する人および扶養される人の、それぞれの収入の金額や法律上の関係などによって、上記の恩恵を享受できるかどうかが決定されることになっています。
では、扶養に入るための経済的および法的な条件とは一体どういったものなのでしょうか?
以下では、扶養に入る条件にはどのようなものがあるのかについてご説明をしていきます。
扶養家族に当てはまるための条件とは?
扶養に入ることができるのは、法的に認められた扶養家族のみとなっています。
扶養家族には大きく分けて2種類のタイプがあり、1つは「配偶者」でもう1つが「扶養親族」と呼ばれています。
「配偶者」とは、所得税に関する扶養の場合は法律上で認められた配偶者を、保険に関する扶養の場合は内縁関係を含む配偶者を、それぞれ指しています。
また「扶養親族」とは、子どもや孫、両親や祖父母、兄弟姉妹など、配偶者以外の血族や姻族を指しています。
なお、扶養親族に当てはまるかについては細かな条件が定められているので、以下でさらに詳しくご説明いたします。
「私の配偶者は私より年収が多いから、私は扶養家族だわ。」と思ったか他がいらっしゃるかもしれませんが、上記に当てはまる親族の場合でも、年収の金額などによって必ずしも扶養家族に当てはまるとは限らないんです。
では、誰が扶養家族になることができるのでしょうか?
以下で所得税関係と保険関係それぞれの扶養に入るための条件をご紹介いたします。
所得税に関する扶養の条件とは?
まず、所得税に関する扶養の条件について見ていきましょう。
こちらのタイプの扶養に入るためには、まず納税者と生計を同じにしていることが条件となります。
また、法律上の配偶者、6親等以内の血族、3親等以内の姻族、里子などが扶養家族として認められるので、事実婚の相手や3親等よりも外の姻族などは扶養に入ることはできません。
収入面を見てみると、自身の合計所得金額が38万円以下であることが条件となっています。
この38万円に「給与所得控除」と呼ばれる65万円を足した103万円が、年間の収入金額の上限であることが条件なので、「103万の壁」と呼ばれることがあるわけです。
ただし、平成30年より配偶者は自身の合計所得金額が「38万円以下」から「85万円以下」に税制改正となりました。
このおかげで、配偶者は85万円に給与所得控除の65万円を足した150万円までであれば、103万円以下の場合と同額の配偶者控除を受けることができるということです。
なお、所得税に関する扶養家族は「扶養親族等」と呼ばれています。
社会保険に関する扶養の条件とは?
次に、社会保険に関する扶養の条件についてチェックしていきましょう。
こちらのタイプの扶養に入るためには、被保険者に生計を維持されている内縁関係を含んだ配偶者、両親などの直系尊属および子どもなどの直系卑属、兄弟姉妹である必要があります。
被保険者に生計を維持されていれば良いので、同居をしていなくても親から仕送りをもらいながら一人暮らしをしている子どもや、別居中の妻なども扶養家族に当てはまります。
また、内縁関係にある配偶者の連れ子や両親、上記に当てはまらない3親等以内の血族および姻族なども、被保険者と同居をしていれば扶養家族として認められます。
なお、19歳以上で23歳未満の扶養親族は「特定扶養親族」、70歳以上の扶養親族は「老人扶養親族」とそれぞれ呼ばれています。
年収の面では、自身の年収が被保険者の年収の2分の1よりも少なく、さらに年収が130万円より少ないことが条件となっています。
そして、この収入の条件が、記事の冒頭でもご紹介した「130万の壁」としばしば呼ばれるものです。
ただし、障害年金受給者や60歳以上の老人は、年収が130万円の代わりに180万円よりも少ないことが条件です。
なお、社会保険に関する扶養家族は「被扶養者」と呼ばれています。
ちなみに、2016年10月に社会保険制度が改正され、社会保険の扶養の対象になるには、働いている場所の環境や稼いでいる月収の金額によって、年収が130万ではなく106万円よりも少なくなければいけないという決まりができました。
・従業員501人以上の企業の学生を除く従業員
・勤務期間が一年以上の見込み
・勤務時間が週20時間以上
・一ヶ月の賃金が8.8万円以上(年収106万円以上)
以上の条件に当てはまる方たちは、130万の壁ではなく「106万の壁」となりますので注意してください。
扶養から外れた場合はどうなるの?
以上、扶養に入るための条件には様々な細かい決まりがあることが分かりました。
では、扶養者もしくは扶養の対象者の収入の増加や引越しなどによって、扶養家族の条件に当てはまらなくなってしまう、つまり「扶養から外れる」と、その世帯にはどのような影響が出てくるのでしょうか?
扶養から外れた際に起こる影響の1つは、世帯の所得税の合計金額が上昇するというものでしょう。
配偶者や子どもなどの扶養家族が、年間で38万円を超える金額の所得を得たとします。
すると、38万円を超えた分の自身の年間所得額に対する所得税の支払いの義務が発生するので、扶養者の所得税に加えて自身の所得税も支出として世帯から出て行ってしまうことになります。
この所得税の支払いを避けるために、学生アルバイトや主婦のパートなどの多くが、年間の収入額が103万円を超えないように注意しながら勤務しているんです。
また、扶養家族がいることで扶養者が受けられる所得税の控除もなくなってしまいます。
扶養家族の所得税が増えて扶養から外れることで、それまで扶養していた側が受けていた所得税の控除がなくなるため、世帯全体としての所得税の支払い額が増えることになります。
扶養から外れることで出てくる影響のもう1つとして、社会保険の扶養から外れてしてしまうことが挙げられます。
社会保険の扶養から外れるということは、自身で健康保険や年金などといった保険料の支払いを行う必要が生じてきます。
先ほどご紹介した通り、社会保険に関する扶養の上限年収は130万円(もしくは106万円)なので、年間の収入額が130万円を超えてしまうと扶養者の保険から外れ、自身での保険料の支払いが必要となります。
扶養の範囲内で「お得に」働けるのは年収いくらまで?
ここまで、扶養の仕組みや扶養に入る条件などについてご説明してきました。
以下では、収入ごとの控除のや保険料の支払いを、所得税と社会保険に注目しながら金額別に分けてご紹介いたします。
扶養の範囲内で働く方がお得なのは年収いくらまでなのか気になっている方は注目です。
配偶者が扶養で働く場合
まずは、配偶者が妻や夫の扶養内で働く場合に、お得に働くことができる年収の金額を考えてみましょう。
上記の通り、配偶者の年収が103万円以下の場合であれば配偶者は扶養家族となるので、配偶者自身が稼いだお金に対する所得税の支払いは必要がありません。
さらに、配偶者の扶養者の年収には配偶者控除が適用されるので、扶養者が稼いだ金額に対する所得税から一定の金額が控除されます。
1年で103万円よりも多く稼ぐ場合は、配偶者は自身の収入に対する所得税の支払いをする必要が出てきます。
また、配偶者の年収が103万円を超えた場合は、扶養者の年収は配偶者控除の対象ではなくなってしまいます。
ただし、配偶者特別控除があるため、配偶者の年収が201万円以下であれば一定額の控除を受けることができます。
なので、年収を103万円以下に抑える場合と比べると、新たに増える年間の保険料の支払い金額よりも多い収入を得ることができるのであれば、年収103万円以下の場合よりもお得に働けると言えるでしょう。
次に、配偶者の年収が130万円(もしくは106万円)を超えた場合は、配偶者は社会保険上の扶養から外れることになります。
そうすると、自身で健康保険に加入する必要が出てくるので、健康保険料の支払いをとして新たな支出が発生します。
また、年金の保険料も支払う必要になります。
収入額や入っている保険によっては、月々の保険料の支払い額が20万円ほどにまでなってしまう場合もあります。
そのため、保険料の支払い額の大きさを考慮して、年収を130万円を超えないように抑えている配偶者は多いです。
配偶者の年収が150万円を超えた場合はどうなるでしょうか。
配偶者の年収が150万円を越えると、扶養者の収入に対する配偶者特別控除の金額が少しずつ減少して行き、最終的には年収が210万円を超えた時点で配偶者特別控除が適用されなくなります。
したがって、所得税の割合や月々支払う保険料の金額などを考慮すると、配偶者の年収が103万円から130万円の間の場合が扶養内でもっともお得に稼げると言えるかもしれません。
子どもが扶養で働く場合
次に、配偶者以外の扶養家族の代表として子どもが親の扶養内で働く場合に、お得に働けるのは年収いくらまでかを考えてみます。
子どもが扶養家族の場合は、配偶者と同じで年収103万円までは所得税の支払いの義務を負うことなく稼ぐことができます。
また、配偶者控除と同様に、扶養控除として扶養者である親の収入から所得税が控除されます。
子どもの年収が103万円を超えてしまうと、扶養控除は適用されなくなるため、扶養者の親の所得税額が増加します。
なお、子どもには配偶者に適用された配偶者特別控除のようなものがないので、103万円を超えた時点で親の所得税が高くなることに注意しましょう。
また、働く場所や稼いでいる月収によっては、子どもにも配偶者と同様に社会保険の106万の壁が適用されます。
ただし、扶養の対象が子どもの場合には、配偶者特別控除の代わりに「勤労学生控除」というものがあります。
勤労学生控除とは、年収が103万円を超えた場合でも、130万円までなら自身の所得税の支払いの対象外となるというものです。
103万円を稼いでから、さらに27万円分の所得税を払わずに稼ぐことができるので、親の所得税の支払い額は増えるものの、支出よりも多く稼ぐことができるようであれば賢い働き方かもしれません。
例をもとに扶養の条件について考えてみよう
ではここで、記事の冒頭で例に出した共働きの夫婦について考えてみましょう。
共働きの夫婦のうち、フルタイムで働く夫の年収が1,000万円でパートタイムで働く妻の年収がそれよりも低い場合、妻が扶養家族になるのではないかと考える方が多いのではないでしょうか?
しかし、ここまででご説明してきた通り、法的に考えた場合は、必ずしも年収が低い妻の側が扶養される立場になるとは限らないんです。
たとえ夫の方が妻よりも年収の金額が多かったとしても、妻が扶養家族になるかどうかは彼女自身の年収や月収、夫の年収や月収の金額などによって左右されます。
上記の例の場合は、夫の年収が1,120万円を下回っているので、妻の年収が103万円以下であれば、38万円の配偶者控除を受けることができます。
年収が103万円よりも多い場合も、201万円以下であれば配偶者特別控除が適用されるため、妻の収入が201万円以下であれば妻は夫の扶養家族となります。
しかし、妻が1年で201万円よりも多く稼いでいる場合や、夫の年収が1,220万円よりも多い場合などは、たとえ夫の収入によって妻の食費などの生活費がいくらかまかなわれているとしても、妻は扶養家族とはみなされないために扶養控除の恩恵を受けることができなくなってしまいます。
扶養のメリット・デメリットとは?
ここまで、扶養の意味や扶養家族になる条件などについて、例を用いながらご紹介してきました。
最後に、扶養に入るメリットおよびデメリットのうちのいくつかを、こちらの記事のまとめも兼ねてご紹介させていただきます。
扶養に入るメリット
・所得税を納める必要がない
所得税に関わる扶養に入っていると、自身が稼いだ収入に対する所得税を納める義務が免除されます。
扶養家族は年間所得額が38万円以下、つまり年間の収入額が103万円以下であれば、稼いだ金額に対して所得税を納める必要がありません。
「所得税でどのくらい引かれるのか・・・。」などという計算や心配をせずに稼げるのは嬉しいですよね。
・扶養している側の所得税の負担が減る
上記の扶養家族にとってのメリットに加えて、扶養する側が所得税を納める上でのメリットも存在します。
それが「配偶者控除」または「扶養控除」と呼ばれるもので、扶養している配偶者の年間所得額が85万円以下、配偶者以外の扶養家族の年間所得が38万円以下であれば、扶養する側は自身の所得税からの支払い額が38万円の控除を受けることができます。
また、配偶者の年間所得額が85万円を超えてしまった場合も、201万円までであればゆるやかな控除額の引き下げが行われるため、配偶者の年収が増えても世帯の所得税支払いにおける負担になりにくい配慮がされています。
ただし、先ほどご紹介したように控除額は扶養家族の年収だけでなく扶養者の年収にも影響されることに注意しましょう。
・保険料の支払いなしで健康保険に加入できる
扶養に入る場合のメリットで最後にご紹介するのは、保険料の支払いを行わなくても、健康保険の被保険者と同様のサービスを受けることができるようになっているという点です。
なので、怪我や病気をして病院に行ったり処方箋をもらったりする際に健康保険が適用されるので、保険なしの場合の支払い額の3割程度の負担で済むんです。
万が一の怪我・病気のときなどに保険が適用されるのは、ありがたいですよね。
扶養に入るデメリット
・稼ぎたい金額が稼げない場合がある
扶養に入る場合のもっとも大きなデメリットとしては、やはり稼ぐことができる金額に上限があるということではないでしょうか。
扶養家族の条件に当てはまるためには、月収や年収が一定の金額を超えないように十分注意をしながら働く必要があります。
アルバイトの学生さんたちに多いのが、ついつい働き始めに張り切ってシフトを入れ過ぎてしまい、途中から、103万円を超えないようにシフトを減らして勤務しないといけなくなるというパターンです。
最初にたくさん稼いでたくさん使ってしまうと、最後の方に自由に使えるお金が減ってしまい遊びに行ったり買い物したりできなくなる・・・なんていうことが起きてしまうようです。
扶養内で稼ぐ際は、数ヶ月先のことも頭に入れながら計画的に勤務していきたいですね。
以上、扶養の意味や扶養家族に当てはまる条件、扶養のメリットおよびデメリットなどについてご紹介させていただきました。
こちらの記事を通して、扶養について少しでも理解を深めていただけていれば幸いです。
扶養についてさらに詳しく知りたいという場合は、日本政府のウェブサイトや政府広報オンラインなどにアクセスをして、詳細をチェックしてみることをオススメします。
https://flhouse.co.jp/article/291/dependant